自転車✕ロードレース
ロードレースの撮影を生業にしているフォトグラファーとして、「どうしてレースの撮影を仕事にしようと思ったんですか?」とよく聞かれます。単純に「スピード感のある被写体として格好いいから」や「スポーツとしては珍しく風景写真としての要素を込めることができるから」などなど色んな理由が出てくるのですが、実は「自転車の能力を最大限引き出したスポーツの写真を世に広めたいから」が前提にあります。要は「自転車ってすごいんだぞ」というメッセージを伝えたいんです。
普段からロードバイクに乗って丘や山を探訪したり、チャレンジングなロングライドに出かけたり、シクロクロスバイクでレースに出たり、グラベルバイクで釣りに出かけたり、シティバイクで買い物に出かけたりと、仕事における被写体としてだけではなく、自分の生活に欠かせない存在になっている自転車。そもそも自転車に乗ること自体が好きなので、その楽しい自転車を広めるにはどうしたらいいのかと悩んだ末に「写真で伝えたらいいんだ」と思い立ったわけです。
UCI(国際自転車競技連合)が定めるルール内で、舗装路を速く走ることを追求したロードバイク。ガソリンを燃やすことなく、人力を効率よく推進力に変える究極の乗り物であるロードバイクで争うのがロードレース。自転車のポテンシャルをわかりやすく表現するための最適な素材がロードレースだったわけですね。
例えばツアー・オブ・ジャパン第1ステージの個人タイムトライアルでは、大仙公園をぐるっと回る全長2.6kmコースを平均スピード50km/hで駆け抜けます。人力で「阪神高速だと速度違反になりそうなスピード」を出せるんです。さすがに初めてロードバイクに乗った人が最初から50km/h巡行をできるわけではありませんが、少し慣れればママチャリでは到底実現できなかったスピードを出せることに驚かれるはず。速く、遠くまで走る快感。初めて自転車に乗った時に誰しもが感じたあの「世界が広がっていく感じ」を年齢問わず味わえます。
つまり個人的な願いとして、ロードレースを見て、ロードバイクに限らず自転車に乗ってほしい。そして自転車に乗るからこそ、その道を極めた選手たちによるロードレースを見てほしい。ロードバイクに乗っている人、ロードレースに出ている人、ロードレースをテレビ観戦している人、ロードレースを現地観戦している人がそれぞれコミュニティを形成しているというか、交わらない雰囲気ってあるじゃないですか。みんな同じ自転車という共通の素材を楽しんでいるのだから、溝や垣根を取っ払って、交わればもっと楽しいに決まってる。ただ速く走るだけでなく、もっといろんなスピード域で、自由にいろんな遊びができるのが自転車。そんな大好きな自転車を様々な形で楽しんでいる人が集まる舞台として、今回のBICYCLE INN PARKが楽しみで仕方がありません。
フォトグラファーとしてツアー・オブ・ジャパンを撮影する傍ら、BICYCLE INN PARKの会場ではツール・ド・フランスを題材にした2024年のカレンダーを販売予定。同じブースでは、一緒にツール取材をしている小俣雄風太による初の著書『旅するツール・ド・フランス』も販売します。ともにレース中は取材と撮影で席を外しますが、できるだけブースに在席しますのでご来店お待ちしております。